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最高裁判所第二小法廷 昭和39年(オ)609号 判決 1965年6月04日

上告人

谷きん

代理人

満園勝美

被上告人

片岡小二郎

ほか一二名

右一三名代理人

双川喜文

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人満園勝美の上告理由第一点(一)について。

論旨は、民法九五条但書が適用されるのは、重大な過失のある錯誤者自身が無効を主張する場合に限るのであつて、錯誤者に重大な過失があつても、その相手方又は第三者は依然として無効を主張しうると解すべきであるのに、錯誤者に重大な過失があるとの理由を以つて第三者である上告人の無効の主張を排斥した原判決は、民法九五条但書の解釈を誤つた違法があるという。

しかし、民法九五条は、法律行為の要素に錯誤があつた場合に、その表意者を保護するために無効を主張することができるとしているが、表意者に重過失ある場合は、もはや表意者を保護する必要がないから、同書但書によつて、表意者は無効を主張できないものとしているのである。その法意によれば表意者が無効を主張することが許されない以上、表意者でない相手方又は第三者は、無効を主張することを許さるべき理由がないから、これが無効の主張はできないものと解するのが相当である(昭和一四年八月五大審院判決、民集一八巻七九二頁参照)。これと同趣旨に出た原判決は相当であつて、論旨は採用することができない。

同第一点(二)について。

論旨は、相手方の詐欺行為によつて要素に錯誤ある意思表示をした者は、たとえ重大な過失があつても無効の主張ができると解すべきであるのに、無効の主張ができないとした原判決は民法九五条の解釈適用を誤つた違法があるという。

しかし、所論の場合においても無効の主張はできない旨の原判決の判断は正当である。論旨は排斥を免れない。

同第二点について。

原判決認定の事実関係の下においては、国の錯誤に重大な過失がある旨の原判決の判断は正当である。また、上告人が国に対して債権を有していたことは原判決の認定していないところであるのみならず、国が無効を主張しえない以上、第三者が国に代位して無効を主張しえないことはいうまでもないから、これにつき原判決に特に説示するところがなくても、判断遺脱の違法があるとはいえない。また、法律行為の無効を主張する当事者は、無効原因に該当する具体的事実を主張する責任があるというべきであるから、論旨後段も理由がない。論旨はすべて採用しえない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

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